知らない貴方と、蜜月旅行
「あの…ココが痛くて、病院に行こうかなと…」


胸の上に手のひらを置いて痛い場所を説明すると、陽悟さんの顔が歪んだ。


「なんでそんな場所…。もしかして、蒼井さんに殴られた!?」
「ま、まさか!そんなこと、されたことないです!」
「だよねぇ。まぁ、いいや。俺の知り合い、整形外科の医者だから診てもらおう」
「え、でも…」
「どうせ病院行く予定だったんでしょ?だったらその時間、俺にちょうだい!…って、こんなこと蒼井さんに聞かれたら俺が殴られるよねぇ」


陽悟さんって、なんなんだろう。この人の思っていることが、よく分からない。絶対本気で口説いてきてるとは思えない。だけど、なんか寂しそうにも感じるのは、なんなのかな。


「はいっ、すぐそこだから行くよー!」
「……すみません。じゃあ、お願いします」


そう言って頭を下げると、陽悟さんはゆっくりと私の小幅を合わせるようにして歩いてくれた。


「ねぇ、それさ。ぶつけたんじゃないよねぇ?」
「えっ…?」
「さっき紫月ちゃんは、蒼井さんじゃないって言ったけど。誰かにやられたの?」
「……っ、」


やっぱ、イタイとこ突いてくるんだよねぇ…。でも吏仁だと思われたくないしな…。


「あの…ずっと黙ってましたけど…。私、婚約者がいたんですね」
「えっ!マジっ?」
「マジ、です。あの日、私が酔っ払ってたのって、婚約者に逃げられた日だったんですよね…」
「そういうこと…」


陽悟さんは驚いていたけど、亮太のことを話すと、バカにすることもなく真剣に聞いてくれた。


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