知らない貴方と、蜜月旅行
「あの、ちょっと、待ってくださいっ!」
「あ、そうだ」
「うわっ、きゅ、急に止まらないでくださいよ!」
「なんだよ。止まれつったり、止まんなつったり」


いや、確かに〝待って〟とは言ったさ!言ったけどさ、急に急停止したらさ、そりゃ背中に鼻がぶつかるでしょうが!


「紫月」
「なっ、なんですか、今度は急に人の名前なんか呼んで…」
「俺の名前は?」
「は?バカにしてるんですか?蒼井吏仁でしょ」
「違う。俺の名前呼んでみ」
「名前、呼ぶって…。えと、吏仁…さん」
「違う。呼び捨てで呼べ」


はぁ?そんなの無理に決まってるじゃんね。昨日今日会った人の名前を呼び捨てって。私はこういう人付き合いみたいなの、苦手なんだからっ。


「あー、あと。敬語も禁止な?」
「え?いや、だから、急にそういうこと言われても、」
「紫月」
「……っ、」


吏仁はなにを思ったのか、言い返す私の頬を両手で優しく包むと、顔を近付けて、すごく優しい目で私の名前を呼んだ。


「呼べるよな?」
「む、り……」
「呼んでくれよ、な?」


ねぇ、誰?この人、誰!急に、どっかの王子様みたく、周りがキラキラしてるんだけど!


「紫月、頼むよ」
「……」
「呼べないなら、呼べるまでキスでも、」
「やだ!呼びます!いや、呼ぶ!呼ぶから!り、吏仁!」
「ふんっ、なんだよ。呼べんじゃねぇかよ。手間かけさせんな」
「……」


騙された…。吏仁があんなキラキラ王子なわけないもんね…。ま、まさか二重人格だったりとか…。あり得る…この男(ひと)なら、あり得る。


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