知らない貴方と、蜜月旅行
もう、時間は夕方5時を過ぎ、5時半になろうとしていた。ホテルでも、やはり吏仁は当たり前だけど〝小西様〟と呼ばれていた。


「アムール・チャペルのほうからお聞きされたかと思われますが、海が見えるお部屋、ご用意しています。素敵な夜をお過ごしくださいませ」


そう言って、部屋を案内してくれたのは、安西(あんざい)さんという男性だ。部屋は洋室で、食事はすべて、ホテル内でいただける。お酒が飲みたければ、部屋でも飲めるし、バーテンダーがいる場所もある。要は、ホテルの外に出なくても、不自由なことはないということだ。


「あっ、ベッドにお花がたくさん!」
「女って、花好きだよな」
「だって、綺麗でしょ?」
「さぁ?」


全然ダメ。吏仁は、なにもわかってない。ベッドに散りばめられた、綺麗な花。きっと、式を挙げたカップルに、こういうサービスをしているのだと思う。亮太なら、なんて言ってたかな。綺麗だな、って一緒に言ってくれてたかな。


吏仁にこの気持ちがバレぬよう、今度は窓からの景色を見に行く。窓からは、沖縄の綺麗な色の海が目の前に映し出されていた。


海も、綺麗…。沖縄の海が見たいって、最初に亮太が言い出したことなのに。亮太は今日なにを思って、なにをしているんだろう。


「綺麗だな、海」
「……吏仁。うん、綺麗だね」


ボーッと海を見つめていると、突然吏仁が隣に現れ、ボソッと一言だけ言った。


「お前を振った男が忘れらんねぇ?」
「えっ?」
「俺とじゃなくて、小西亮太と来たかったか?」
「そんなっ……」


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