知らない貴方と、蜜月旅行
恥ずかしすぎるっ。吏仁の肩をベシッと叩き、ベッドに移動し速やかに布団を被った。最初は逃げる為だけに駆け込んだベッドだったのに、瞬きの速度がドンドンと落ちて行き、寝落ち寸前。


「紫月…?寝たのか?」


私に叩かれた吏仁は、濡れた髪を乾かすのか、ドライヤーの音が聞こえてきた。だけどその音が静かになると、先ほどとは違う優しい声が私の耳に届いた。


そして、静かに布団を捲る気配に、さっきまで寝落ち寸前だった私は少しだけ目が冴えてしまった。けれど、吏仁が布団を捲った時に私の目が開いてたら、軽くホラーのような気がして瞬時に目を閉じた。


すると、吏仁のいつものぶっきらぼうの声ではない、優しい声で私に話しかけてきた。


「なぁ、紫月。これでよかったのか…?お前のこと、放っておけなくて、こんな手荒なことしちまったけど。……本当は起きてんだろ?もし嫌なら、離婚届持ってきて書いて置いとけ。だけど、俺はお前…紫月のこと、好きだぜ。亮太のことなんか、忘れさせてやるよ。だから思いっきり甘えてこい。全力で受け止めてやるよ」


そう言うと、吏仁は私が苦しくならないように、布団を顔が出るように掛け直すと「もう一杯、酒飲んでくるな」と、静かに部屋を出て行った。


「なに、今の…。ビックリした……」


ドアの閉める音が聞こえて、勢いよく飛び起きた。あんなこと言うのにもビックリだし、寝たふりこいてたのがバレてたのにもビックリだし…。


でも吏仁の気持ちが少し分かったよ。吏仁も少し悩んでたこと、私に逃げ道を作ってくれたこと、だけど私が飛び込むなら全力で受け止めてくれること…。吏仁がいなくなった部屋は妙に広くて、寂しかった。きっと吏仁は私のことを思ってお酒を飲みに行ったんだろうと、私はもう一度横になった。


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