知らない貴方と、蜜月旅行
「無視するなんて、まずかったかな…」


吏仁がいない部屋で独り言を呟いてみる。でも、あんなことされるなんて思ってもみなかったし、突然だったからビックリしたし…。でも……吏仁、怒ったのかな。


そうこうしているうちに、吏仁が部屋に戻ってきた。昨日の夜みたく上半身裸に、ボクサーパンツ一枚で、首からタオルを下げて。


あ…この空気、私苦手かも…。なんとなく、これ以上いれない雰囲気に、恐る恐る話しかけた。


「吏仁っ、シャワーしてきたんだね!髪、乾かしてあげようか?」


すると、うつむき加減だった吏仁が、私を見た。その目は怒っているというよりは、どちらかと言ったら哀しい目。


「いや、いい」
「……そっか、そうだよねっ。あの、じゃあ、私…ちょっと外の空気吸ってこようかな!」


ダメだ、まだ吏仁のことよく分からないから、こういう時どうしたらいいのか…。放っておくのがいいのか、ご機嫌取りじゃないけど話しかけるのがいいのか、私がいなくなるほうがいいのか…。


そう思って、ドア付近に移動した私がドアを開けようとした時、大股で近付いてきた吏仁に腕を掴まれた。


「えっ…、」
「行くなよ」
「あ、でも…」
「行くなって」
「……うん、わかった」


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