アルチュール・ド・リッシモン

ベッドフォード公との亀裂

「アルチュス、そうはいっても、もうアンヌの夫なのよ。義理の兄弟なんだし、シャルル7世の味方をするつもりはないということをもう一度話してみてはどう?」
「フン、これ以上何を話せというのだ! そんなに夫が侮辱されて嬉しいか!」
「嬉しくなど……」
「だったら、もう何も申すな!」
 顔をしかめてドンと机を叩くアルチュールに、マルグリットはため息をついた。
 いえ……。これでもいいほうなのよ、きっと……。ルイの時のようにいきなり田舎に送られるよりは、感情を目の前で見せてくれているんですもの、マシなはずよ。まぁ、これからのことを思うと、不安だけど……。
 マルグリットは新婚の夫に言えない不安を心の中に抱えてしまったせいか、少しずつ体調を崩していくのだが、この時は本人でさえも、そのことに気付いていなかった。

 一方、怒り心頭のアルチュール・ド・リッシモンは、二度とイングランドの傘下に戻らないと決め、以後、イングランド最大の敵となるのだった。
 ヘンリー5世が亡くなる前、弟のベッドフォード公に
「アーサーをフランスに戻さず、手元に置いておけ」
と遺言を残したらしいが、彼がそれを忠実に守っていれば、イングランドとフランスの歴史は変わっていたかもしれない。今となっては、言ってもしょうがないことだが。

 その敵となるベッドフォード公だが、若く美しいマルグリットの妹アンヌを娶り、公私共に充実していた。
 1424年にはヴェルヌイユの戦いで陣頭指揮をとり、大勝する。その結果、イル・ド・フランスやボーヌなども一挙に占領し、ロシュフォールを包囲するまでに至る。
 この頃がイングランド軍が最も優位を確立していた時期であったともいえる。
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