アルチュール・ド・リッシモン

アルチュールの結婚

「ジョン、少し休めばどうだ? イングランドに戻ってもよいぞ。今はもう、私にはラウールもおるしな」
 同じフランス人ということもあり、フランス語で会話することも増えた上に、ずっと片思いをしていたマルグリット・ド・ブルゴーニュとの結婚も決まり、笑顔が増えてきたアルチュールがそう言うと、ジョンは泣きそうな表情になった。
「私は……本当にもう用済みなのですね……」
「そういう意味ではない。最近、そなたの表情が暗く、つらそうなので、休めと言っただけだ」
「しかし、私はアーサー様の……」
「お前を私につけてくれたヘンリー5世は、もうこの世におらんのだぞ?」
 その言葉に、ジョンはびくりとした。
「そう……ですね……。分かりました。戻ります」
 そう言うと、ジョンはその場を後にした。
「これでようやく、アルチュス様が動きやすくなりますな」
 その後ろ姿を見送った後、ラウールはフランス語でそう言い、アルチュールもにやりとした。
 この頃、アルチュールは義理の兄となるブルゴーニュ公フィリップにより、アンマンソン谷の諸城、モンバールとブーイイの城、トネール伯領を送られ、それで生計が立てられるようにもなっていた。

 1423年10月10日、アルチュール・ド・リッシモンは長年思い続けてきたマルグリット・ド・ブルゴーニュと結婚した。
 共に年齢は30歳であったが、夫のアルチュールは初婚、マルグリットは再婚であった。
 年が明けると、アルチュールは兄が治めるブルターニュに向かった。シシリー女王ヨランド・タラゴンとシャルル7世を自称する王の使節達との話し合いに参加するために。
 が、これがベッドフォード公の怒りを買ってしまい、6月に街道荒らしを退治するために兵を借りようとしたところ、罵倒されてしまったのだった。
「裏切者だの恩知らずだの、あそこまで言われるとは思わなんだ! もうあやつの顔など見たくもない!」
 ベッドフォード公の所から戻ると、アルチュールはそう叫んで、近くにあった机を蹴飛ばした。

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