アルチュール・ド・リッシモン

シャルルの対応

 内密にアルチュールと会ったヨランドはアルチュール・ド・リッシモンを気に入り、シャルル7世の──ひいてはフランスの大元帥にするべく推薦し、彼自身もそれを了承したのだった。
 こうなると、あとはもう、国王を自称しちえるシャルル7世の許可をとるだけであったのだが──。

「アルチュール・ド・リッシモン? 誰だ、それは?」
 後に「これほど楽しそうに首都を奪われた王はいない」とラ・イールに称されるシャルル7世は、このころから刹那的な享楽に興じていた。
 ヨランド・タラゴンからの使いが来た時も、一応王宮の一室のサロンで仮面をかぶって、売春婦達と遊んでいた。
「何でも、ブルターニュ公ジャン5世様の弟君で、ずっと亡きイングランド王ヘンリー5世のお傍近くにおられたお方だそうです」
「ヘンリー5世の傍におった、だと?」
 その名前にシャルルは露骨に顔をしかめた。
 彼にしてみれば、ヘンリー5世は、両親に否定されるきっかけを作った男。つまりは、憎い男であった。
「そんなイングランド人を味方につけてどうする? 私の為に働くとは、とても思えんが?」
「イングランド人ではございません、陛下。ブルターニュ公の弟君でございますし……。ヘンリー5世の傍におられたのは、アザンクールの戦いで捕虜になって以来、離してもらえなかったからだそうでございます。何でも、兄君が何度も身代金を何とか都合をつけて払おうとなさっても、受け取ろうとさえされなかったとか……」
「そんなに仲がよかったのか?」
 どこか遠くをみながらそう言うシャルルに、ヨランドの侍従は困った表情になった。
「逆でございましょう。信用出来なかったからこそ、ずっと傍におらせたのでございましょう。何でも『ブリトン人の中から現れる英雄の名を持つ者に滅ぼされる』という予言があり、それを気にされて、離されなかったのだと聞いております」
「ほう! では、それほど有能なのか?」
「それはどうでございましょう。初陣ですぐ捕虜となり、10年以上ヘンリー5世の傍におらされ、これといった勲功も上げておりませんので……」
「ううむ……」
 そう言うと、シャルルは何かを考えながら、近くの椅子に座り込んだ。
 ちょうどその時、シャルルの目の前をほぼ裸の肉付きのいい売春婦が、彼をからかうように目の前を歩いたが、彼はバシンとその尻を叩いて追い払った。
「とにかく、ヘンリー5世はその者を恐れておったのだな? そして、我妻の母上殿もその者を推挙しておる、と。ならば、それに乗ってみるほかあるまい」
「おお、了承して頂けますか!」
 侍従は心底ほっとした表情でそう言った。
「ああ。で、どこで許可を与えればよいのだ?」
「パリにお呼び出し下さい。そこで、尊大に仰せになられるだけでよろしいかと、リッシモン様もそれで充分、お喜びになられることでしょう」
「ふむ、喜ぶか……。まぁ、本当のフランス国王はこの朕なのだからな!」
 そう言うと、シャルルは胸を張った。
 先ほどまで同じサロンで、安い売春婦と戯れていた男とはとても思えない「何か」があった。
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