強引同期と恋の駆け引き
大学を出たばかりの年の離れた弟にまで、先を越されそうなの??
焦った私は、母親の否定の言葉で少しだけ安心し、すぐさま落とされる。
『これからの話。でも、そう遠い話じゃないかもね。この前、可愛い彼女を連れてきたし』
巧巳に彼女……。ついこの前まで、坊主頭でボールを追いかけていた野球バカが?
『佐智。あなたね、自分が幾つになったと思っているの。それとも、ちゃんと将来を見据えてお付き合いしている人でもいるとか?』
「そんな――」
人いるわけがない。
そう言いかけて浮かんだ顔が、私の自尊心をくすぐった。
「付き合っている人くらい、いるに決まってるでしょ。自分の娘がいったい幾つだと思ってるのよ?」
『……』
急に静かになる電話。沈黙に続いて、鼓膜を破る勢いで捲くし立てられる母の声は、耳からスマホを遠ざけたくなるほど。
『それならそうと、早く言いなさいよっ! いつするの? 式は? とにかく一度、家に連れてきなさいっ!!』
「そんなの、私だってまだわからないわよっ! いま外なの。またこっちから連絡入れるから。じゃあね」
『あっ、待ちな――』
強引に通話を終わらせると、黒くなった液晶画面に向けてため息を吹きかける。
それをバッグにしまって、会場に引き返そうと向きを変えた私の前にとうとつに現れた壁が立ちはだかっていた。
「久野っ!?」
「へぇ。いつの間に、男ができてたんだ?」
「……あんた、聞いてたの?」
彼は眉を寄せた私を冷めた目で見下ろし、皮肉に口を歪ませた。
「だから、あんなに必死にブーケを取ろうとしてたとか?」
「そういうわけじゃ……」
久野にジリジリと間を詰められて、私の背が壁に当たる。
「今度は長続きしてるというわけか。いつ結婚するんだ? 相手は誰? オレの知ってるヤツ?」
矢継ぎ早に質問してくる口調はからかいが混じったものだけど、見透かすような視線は鋭くて。
追い詰められた背中に嫌な汗が一筋伝う。