強引同期と恋の駆け引き
「ある意味非道い男だよな」と、自戒のため息を吐いた久野の襟を掴んだ私の手が、勝手にぷるぷると震え出す。
「――私、別に薦めたつもりなんかない」
そりゃあ、がんばれ的なことは言ったけど、選んだのは自分でしょ? 思わず非難めいた眼差しを向ければ、反対にしかめっ面を返されて。
「来るヤツみんな、口を揃えて『佐智先輩に応援されて勇気が出ました!』って言うんだぞ。おまえが送ってよこしたと思うのは当然だろうが。好きな女にそんなことされて、自棄を起こした俺だけが悪いって言うのか?」
どさくさに紛れて、いま、なんて言いました? 緩んだ手の平に、ジャケットの上からでも捉えられるほどの久野の鼓動が伝わる。それに私の心臓の音がシンクロを始めた。
大きな手で顔を隠すように前髪を掻き上げる久野が、一言ずつ選びながら言葉を紡ぎ始めた。
「初めはただ『危ないヤツ』だと思った。あんな場所でニタニタと汁粉缶を飲んでいたんだからな。しかもカバンの中から取り出すし」
それのどこがおかしいの? 私の意見はどうしてだか聞き入れてもらえない。
「だけど、あまりにもインパクトがありすぎて。再会したときには、マジか? と思ったよ」
それはお互いさまです。
「まあ、話してみれば普通……でもなかったけど、おもしろいヤツだったし、まさかの同期になるし。最初の印象がアレだったから変な気も使わなくって。とにかく楽だった」
「うん。それは私もそう。だから――」
ちゃんと女の子扱いされたり、共通の話題に意気投合して盛り上がったりしたときのドキドキこそが恋だと思って、他の人とお付き合いをしてみたものの、言葉では説明できない違和感が常に付きまとい。結局はそのギャップに疲れてしまっていた。
だけどね、情けないことだけど、三十年以上生きてきてやっとわかった。恋のドキドキにもいろんな種類がある。ゆったりと流れる時に沿うようにトクントクンと動くものあるんだってこと。
そして、私の波長は久野といるときのそれに重なり、まったく無理なく刻まれていたから、こんなにも気づくのに時間がかかってしまった。