強引同期と恋の駆け引き
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久野との腐れ縁が始まったのは、就職活動中の企業説明会だった。
同じような色形のリクルートスーツに身を包んだ学生たちがひしめくホールは、熱気と緊張で息苦しい。
休憩中。気合いを入れるためにバッグから取り出したお汁粉缶をグビグビと飲んでいると、妙に視線を感じて。
顔を少し横へ向けると、長い脚を窮屈そうに椅子に納め、不審げに目を細めてこちらを見ている隣の男子学生と眼が遭った。
「……汁粉?」
形の良い眉を片方上げて訊くから、バックからもう一本出して差し出した。
「よかったらどうぞ。冷たいけど」
やっぱりお汁粉は熱いくらいの方が美味しいけれど、持ち歩いていてはしかたがない。
虎の子の一本を譲ってあげようとしたのに、その人は困ったような顔をして断った。
「いや、いらない」
そっけなく言われれば、なんとなく気分が悪い。
少し不機嫌に缶を引っ込めたその後も、気になってチラチラと目がいってしまっていた。
初めのうちは敵意を込めて向けていた視線だったはずなのに、細く長い指だなぁとか、サラサラな髪が羨ましいとか。
無意識にそんなことを思っていたと気づいたのは、もう少し後のことで。
そのときはどこの誰かも知らず。もう、二度と会うことはないだろうと思っていた。