強引同期と恋の駆け引き



 ◇


この期に及んで、自分にとって久野の存在がどのようなものになっていたかに気づいても、いまさらどうにもならない。
あと数日もすれば彼はこの場所からいなくなり、新天地で忙殺され、きっと私の存在などすぐに忘れてしまうだろう。

「行かないで」なんて、青臭い台詞をなりふり構わず言えるほど若くはない。それに私には、そんなことを言う権利さえないんだから。

だからせめて、最後までいままで通りに。

それが、私の自覚するまでに時間をかけすぎた恋に出した結論だった。



「そういえば、ホワイトデーのお返し、まだもらってない」

わざとらしくおどけて言ってみせれば、久野は細くて長い人差し指をピッとこちらに向けた。

「あの程度、それで十分だろう」

「それも、そうだね」

私は手の中の缶を見て納得する。

彼と出逢うきっかけをくれた缶のお汁粉。中身はすっかり冷めているはずなのに、両手で包んだそれはいつまでもじわりとした熱を放っているような気がして、手を離したくなかった。



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