桜の木の下に【完】

その能力は他の幻獣の居場所を把握したり、操ったり呼び寄せたりできるもので、自分よりも弱いか同等の幻獣だったら可能なようだった。

つまり、悪い大人に利用されてしまう危険性があった。例えば、事故を起こさせたり、暗殺をさせたりするような、子供がやる必要のないこと。

それを防ぐために、頭領は神楽を匿っていたのかもしれない。


「そうか、そのときに私と神楽は……」

「正直、桜田のことはすっかり忘れていた。神楽も思い出すことはなかったが、再会したときに思い出したんだ」


でも、神楽は暗部であることを言わなかったから俺たちも気づかないふりをしていた。

直弥も忘れているようだったから、俺も話す必要はないだろうと隠した。

そうしていたら、今回のことになった。


「実は、神楽に今朝会ったんだ」

「え…様子は?どんな様子でしたか?昨夜から様子がおかしかったんです」


朝早くに物音に気づいた直弥が玄関に行くと、そこにはいつもと違う神楽が立っていた。

笑わない、無表情の神楽が。


「神楽は振り向いて『もうここには戻れない』って言った。オレがなんでって言っても答えてくれなかった。そのときに自分が暗部の人間であること、他にやるべきことができたことを伝えてきたんだけど、一方的にそれだけ言うとあっという間にいなくなっちゃったんだ」


花火をしたときはあんなに明るかった神楽の変わりように直弥は混乱し、追いかけることもできなかった。

というより、信じられなかったんだ。


「暗部の命令は絶対だって話だし、ののちゃんの護衛が神楽の任務だと思うんだ。でもそれを途中でやめるなんておかしくないか?幹さんとは全然会ってないし、オレたち以外の人と会ってないと思うし……」

「でも俺は納得したよ」

「……なんでだよ」

「いいか?桜田の護衛は俺たちが引き受けている。桜田を護ることが神楽の任務の中に含まれていたのは確かだと思うが、他に別の大きな任務があったんじゃないのか?」

「例えば?」

「例えば…明月の協力者を探し出し殺す、とかな」

「なんで、殺しなんか……」

「父親が娘を護りたいと思うのは皆同じだろ。それに、幻獣関係の死傷はある程度は隠蔽されるから不可能じゃない。桜田のそばにいれば、その協力者の手掛かりが掴めるかもしれないと考えていたんだろうが……その手掛かりを見つけてしまったんだろう」

「………あ、もしかして……………」


桜田がみるみると顔を白くさせた。

でも、目は赤く潤んでいた。


「昨日、こんなことがあって……………」


桜田の話を聞いて、俺は確信した。

神楽は、間違いなく窮地に立たされているのだと。
< 60 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop