桜の木の下に【完】

「俺が先に入るから、二人は後からついてこい」

「わかりました」

「ののはお留守番だ」

「そんな……!私も行く!」


離れた私の肩を掴みながらお父ちゃんは二人に言い放ち、私を見ないでそう告げた。

抗議しようと身体に力を込めると、グッと肩を強く押された。

見上げると、お父ちゃんの目には何も感情が込められていなかった。

知らない、こんなお父ちゃんなんて知らない……!


「お父ちゃん!なんで!」

「出発だ」


その一言が静かに響くと、お父ちゃんの背後にたくさんの人が闇から現れた。

男女問わず、年齢もバラバラの先鋭たち。

これが……暗部。


「ごめんなさい、ののちゃん」

「早菜恵さん?……あの、手を…」

「私も本当は行きたい。でも、行けないんだよ」


早菜恵さんは一緒にいたあの男の人と遅れて現れると、私の腕を掴んだ。

その力のこもった手はわずかに震えていて、振り払おうと思えば振り払えるような、そんな儚さを感じた。

早菜恵さんも戦ってるんだ、と彼女の目を見て思った。

加菜恵さんがどうなってしまうのか、わからないから……

私が早菜恵さんに気を取られているすきに、暗部は散り散りになり、三人は颯爽とこの場を去ってしまった。

残されたのは私たちと、その護衛役の数人の暗部だけ。

寒空の下、私たちはざあっと一際強い風を一身に浴びながら、彼らが消えて行った方向をただ見つめていた。
< 77 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop