金曜日の恋奏曲(ラプソディ)


りっちゃんに教えてもらったり、自分で調べたりして、1人でも出来る髪型のバリエーションが増えた。



今日は、下に髪の毛を少し残して、上はくるっとまとめた、ハーフアップのお団子ヘアだ。



サイドには、りっちゃんが一緒に選んでくれた、アンティーク調の金のお花のヘアピンを刺して。



大丈夫かな、変じゃないかな、と、自然に鏡を見る回数も増える。



須藤くんに会うのが楽しみなような、まだ会いたくないような、あの矛盾した気持ちがやっぱり私の中で渦を巻く。



それでも私の心の内とは関係なく、時は過ぎて、放課後になった。



いつも通り高めのポニーテールになったりっちゃんが、私の両肩を掴む。



「う〜〜放課後になっちゃった〜。」



私もりっちゃんの心境を察して頷いた。



「私剣道が大好きで部活も大好きだったのに、今では剣道のために部活行ってるのか渡辺に会うために部活行ってるのか、なんだかよく分かんないことになってる〜。」



そう言ってりっちゃんは頭を垂れた。



しかし、私は聞き逃さなかった。



りっちゃんが頑なに言わなくて、私がズルいと言っていた、りっちゃんの好きな人の名前を。



「…渡辺っていう人なの?」



りっちゃんが、しまった、と顔を上げた。



私はニヤニヤが止まらない。



りっちゃんは私の顔を見て顔を赤くした。



「…もう、もうっ…琴子なんてっ」



そして、自分の荷物を全部引っ掴むと、脱兎の如く走り出した。



「頑張ってね琴子もっ!」



さすがのりっちゃん、びゅんっ、と一気に廊下を駆け抜け、あっという間に角を曲がって見えなくなった。



私はその後ろ姿に振っていた手を下ろして、静かに大きく脈打ち始めた鼓動を感じる。



…蒸気機関車に、似てるかも知れない。



ゆっくり少しずつ煙を上げて、早まっていくように、私の中で何かが高まって、心臓は鳴って、熱くなっていくから。



…私も、行こう。



拳を、ぎゅっと握った。



最近は晴れの日が多く、蝉の声もよく聞こえるようになってきた。



気温は蝉の声によって数度上げられてるんじゃないかと思うくらい、夏の風物詩とあって、耳から感じる温度は高い。



うるさいって言う人もいるし、煩わしく思うときもあるけれど、私はそれがあまり嫌では無かったりする。



…須藤くんはどうかな…。




私の思考には、何の脈絡もないところですぐに、須藤くんが登場する。




…いつでも、あなたのことが頭から離れません。



そう言ったら、どんな顔するだろう、とか。



本人を前にしたら、そんなこと言えるはずも無いのに、考えたりしてる。



前よりずっと、例えば昨日より今日、今日より明日、どんどん、好きになっていく。




…ただ今は、純粋に会いたいって想ってるんだ。




私の足はいつの間にかスピードをあげて、図書室への一本道を進んでいた。

< 72 / 130 >

この作品をシェア

pagetop