ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました

(四)

自警団に直訴してくる。と目にクマを作ったサヌッテさんが出て行った明朝、サクスくんが目覚めた時でもあった。

「うわー、先輩また喧嘩売りに行ったんすね」

「また?」

「二週間前にクモのモンスターが来てから、以来、ちょくちょくとあんな小物が町に現れるようになったんす。もともと町にはモンスター対策に自警団がいるんすけど、名ばかり。そうめったに来ないなら物見遊山な奴ばっかで、先輩はよく物申していて……。先輩がどんなに言っても、あいつらはアテにならないし、呑気に構えてんのも変わらない。なんせ、オレがいますから」

寝癖のついた頭をかきつつ、自虐的に彼は笑う。

「『目には目を。化け物には化け物を』って、道理っすよね」

「化け物って……。昨日のことを言っているなら、ただの魔法じゃないですか。みんなを守るために戦った力を化け物扱いするなんて……!」

「その魔法の種明かしを知れば、そうも言いたくなるんすよ。もともと、おかしい子だったすから」

手にした小瓶を見せられる。透明な小瓶の中には土が入っていた。

「骨が混じった墓土っす」

白い異物を垣間見た。

「幽霊が見えるのは分かるっすよね。小さい頃からそれでおかしいと言われて、捨てられて、あっちこっち転々とし、この町でもやっぱり扱い変わらなくて、またどこか行こうかと思ったんすけど、司祭さまや先輩に引き止められたんです。いくら、不気味な姿のモンスターがいて、説明出来ない魔法があっても、それは見えるからこそみんなに理解され恐れられる対象となりますが。みんなに見えない理解されない物を見るオレは、おかしな奴と嘲笑される対象となる。

初めての二人なんす。フィーさんで三人目。みんなが気持ち悪いおかしいと言う“これ”を、取るに足らないことだと、普通に話してくれんのは」

だから、大切なんだと彼は続ける。

「守るためなら、化け物にもなれる。己の形を変異する魔法なんすけどね。それは、この墓土の幽霊を取り憑かせてやっていることなんす」

「取り憑かせるって、あれは」

人間ではなく、イッカク(モンスター)の一部を宿せるともなれば。

「オレ、モンスターの幽霊も見えます」

さらりと、自身の目に映る物を彼は言う。


「オレの目にはいつも、“何か”がいます。たまに、景色が分からないほどびっしりと見えるときだってある」

「……」

「心配しないで下さい。今はそれらをある程度、“無視”することが出来ますから。ここに来てから心に余裕みたいなのが出来て、存外に簡単なことだったと何の苦痛もないっすよ」

平気平気と、おどける彼だったが、そこに来るまでの苦痛を考えるとこちらの顔はなかなか晴れはしない。

「そんな顔をさせるためにした話じゃないんすけど、すみません。本題に入るには、どうしてもオレの力について知ってほしかったから」

「クラビスさんの力を取り憑かせたいのですか」

今までの流れで、サクスくんが司祭さまの声を取り戻すのに協力してほしいのが私ではなく彼であるのは分かった。サクスくんも肯定する。

「はい。オレの魔法は、幽霊を己の体に憑依させて、その力の一部を使うことなんす。その人間ないし、モンスター(幽霊)を埋めた墓土を媒介にして、発動出来るのですが、それにはクラビスさんの“了承”が必要です」

彼の目が、私の後ろに向けられる。

「このモンスターたちは、オレが埋葬し、弔った者たちで、その礼があるからこそ、オレが力を貸してほしい時に応えてくれる。だからーー」

絶対的な魔法を使うための了承が欲しいとサクスくんが最後まで言えなかったのは。


「そんな、拒否するって」

下げようとしたであろう頭が呆然としている。

クラビスさんの声が聞こえなくても、拒否したのは明白に分かった。

「司祭さまの声を奪ったのは、昨日みたいな小物とは違う奴です!あの時、司祭さまの声を守れなかったのは敵わなかったから……今のオレでは太刀打ちできない相手だったからなんすよ……!

自警団の連中じゃ歯が立たないし、強者揃いの騎士団は片田舎での騒動を見向きもしなくて…!先輩がいくら言っても、アテになる助けなんか来ないっ!オレしかやれないんすよ!犬死に覚悟で行くつもりでしたけど、あなたがいれば、きっと……!」

「クラビスさん、私からも……」

口添えしても、サクスくんの厳しい表情から無意味であるのは知れた。

「どうして、ですか」

「……、フィーさんを巻き込みたくないからだそうです。自身は彼女から離れる気はないし、危険な場所に行かせる気もない。そうして、“そんな下らないことに付き合いきれるか”って」

思わず、平手打ちをした。
何もない場所だから、当然、私の手は空振りに終わる。

「行きます。私一人でも行きますから」


何も出来ない足手まといでも、行く。

それは予想済みか、サクスくんの引きつった悲鳴が聞こえた。

彼のことだ、きっと。

「“事の元凶を始末すれば”と考えないで下さい。二度、言います。一人でも行くと」

「ふぃ、フィーさん。クラビスさんが、かなり怒って、つか、その怒りがオレに向いてーーは、はいっ、伝えますから!えっと、『行き過ぎた優しさは身を滅ぼす。生前も死後も、俺はそんな君を守るために動いてきた。何をしてでも。どんな手を使っても。止められる手足も、縛れる鎖もないけど、君は優しいから』」

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