あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「で?別に仕事には関係ないと思うが」


 中垣先輩は大きな溜め息を吐いた。そして、私を見つめる瞳はいつになく優しさを宿している。


「フランス留学…どうするのですか?お祖母さんの具合が悪いのに」


「俺が行くに決まっているだろ、坂上は自分の事だけを考えていればいい。今までずっと仕事一筋で来た。坂上は今、自分の事を考える時間だと思う」


 中垣先輩が言っているのは私と小林さんのこと。二人とも仕事は忙しいけど、それなりに時間を見つけては会っている。私はフランスに行くとなると…。今までのような関係は保障できない。今の私は小林さんと離れることなんか出来ない。


 でも、もしも中垣先輩のお祖母さんに何かあったら…私は。


 私のお祖母ちゃんは私が東京北研究所にいる時に病気で倒れた。どうしても近くに居たくて私は転属を申し出、本社営業一課に配属された。結局、お祖母ちゃんは病気のために亡くなったけど、私は私の出来ることを全部したので、最初は悲しかったけど、今はその悲しみも乗り越えて生活している。


 あの時の行動が無かったら私は後悔していたと思う。


 もっと、お祖母ちゃんに色々してあげたかったって思っただろう。研究一筋の中垣先輩が仕事を押してまで病院に通うのはあの時の私と変わりがない。それなのに先輩は私の幸せを考えろという。優しい言葉でもあるけど、私は悩む。
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