あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 留学期間は二年。


 私と小林さんの仲は保てないかも知れない。でも、考えたくないけど、中垣先輩のお祖母さんの身体も悪化しないとは限らない。迷いながらも私は自分の中に答えがあるのを分かっていた。私には自分の幸せだけを優先することはできなかった。


 知ってしまった今。私の心には迷いが浮かんでいる。


「でも」


「だから、お前の耳に入れないようにしていた。所長が言うとは思わなかった。全く…。支社の小林とうまくいっているのを壊す必要ないだろ。この話は終わりだ。坂上のパソコンに新しいデータを添付して送っているから見てみてくれ。この結果が良ければ纏めて提出すればいいと思う。後は他の部署の仕事になる」


「はい」


 中垣先輩の頭の中ではさっきまでの会話は終了して仕事の話しに移行している。でも、私の頭の中は混乱するばかりでうまく仕事が捗らない。そんな私に中垣先輩は何も言わずに自分の仕事だけを自分のペースでしていくのだった。


 いつも通りの過ごしている中垣先輩を見て私は混乱する。どうしたらいいのだろう?私がフランス留学に行くというのは先輩の中にはない事なのだろう。本当に私はどうしたらいいのだろう。


 研究所を出たのはいつもの時間よりも少し遅い時間だった。いつもは研究所を出るとすぐに小林さんにメールするのに、今日は携帯の画面を指が滑らない。小林さんに会いたいのに今日の中垣先輩のことが頭に残っていて、気持ちの整理がつかない今、指が躊躇する。


 自分の中の気持ちを整理すると答えは一つしかない。



 私は小林さんが大事。でも、自分の幸せのために誰かが辛い思いをするのは耐えられない。とっても好きで好きで堪らないけど、私は自分の心に嘘はつけないと思った。


『お疲れ様です。出来れば、今日か明日、会いたいです。小林さんにお話したいことがあります』
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