あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】

私の決意

 電車の中でも自分のマンションの部屋に戻っても考えるのはフランス留学のことだった。もしも、小林さんと付き合ってなかったら、私は何の迷いもなくフランスに行ったと思う。研究員としてフランス留学は魅力的だし、誰もが行けるというものでもない。自分のキャリアを考えるとフランス留学に行った方が研究者としての先は開ける。

 
 でも、私は恋を選んだ。小林さんと一緒に居たいと思うから私はフランス留学を断ったのに、私は今揺れている。


 中垣先輩のお祖母さんのことが自分のお祖母ちゃんと重なってしまった。東京北研究所の統廃合が決まった時に私は自分の仕事を取るか、お祖母ちゃんとの時間を取るかと考えて私はお祖母ちゃんの傍にいることを選んだ。



『美羽の手は温かいね』


 身体を蝕む病魔で苦しかったと思うのに、私が手を握ると穏やかに微笑み、優しく私の手を撫でてくれたのを私は忘れない。小さな時から私の手を包んできた手は皺が増え、いつしか私の手の大きさを変わらなくなっていた。それでも、私を思う優しい手だった。そして、天に召されていった時、研究という仕事を諦めたのは間違いではなかったと、その時の私は思った。



 中垣先輩のお祖母さんが私のお祖母ちゃんのようになるとは思わない。もしかしたら回復されるかもしれない。どのような状況か分からないけど、それでもあの中垣先輩が自分の研究を中断してまで病院に行くというのは芳しくないのだろう。

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