あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 今は小康状態であっても、中垣先輩のお祖母さんの年齢を考えると何があるかわからない。でも、もしもフランスに行くとしたら、小林さんと私は…。別れることになると思う。小林さんのことを信じているとか信じていないとかではなく、私以外にも小林さんにふさわしい人はたくさんいる。


 私と付き合っている今でも静岡支社での人気は絶大で、研究所にもそんな話が流れてくる。傍にも居ない私よりも見目麗しく、可愛らしい女の子に囲まれたら、いつしか小林さんの気持ちが動いても仕方ない。自分よりも明らかに綺麗で魅力的な人が小林さんを好きだといっているというのは事実だった。小林さんは全部断ったというのも知っているけど…。私が居なくなれば、女の人たちは諦めないだろう。


 でも、だからといって二年も待っていて欲しいとは言えない。小林さんはとっても優しく思いやりのある人だから誰よりも幸せになって欲しい。あんなに優しくて思いやりに溢れた人は誰よりも幸せにならないといけない。そう分かっているのに揺れる私の気持ちは自分でも制御出来ない。


 ソファで自分を抱きかかえるように座り、小林さんと出会う前の私に戻るだけなのに小林さんの存在が大きくなり過ぎていて、思いだけど苦しさを感じた。


 傍を離れないといけないかもしれない時になって思い出すのは小林さんの顔。ハッと見惚れる笑顔だったり、少し困ったような顔だったり、眩しそうに眼を細め真剣さを醸し出す顔だったり。


 私は小林さんのことをこんなにも好きになっていた。傍にいれたことがこんなにも素敵で幸せだったと分かっているようで分かってなかった。
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