あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 珍しく中垣先輩から休憩すると言って研究室を出て行ってから思うのは、この研究が中垣先輩にとっても思うように行かず、苦労しているからだと思う。一度で成果に結びつくなんか思ってない。でも、少しくらいは糸口の欠片くらい欲しい。私のデータと中垣先輩の持っていたデータではまだ足りない。


 期限が決められているけど、じっくりと自分の中の理論を考察し、それの道筋を決めていく。今季が必要なのは知っている。だから、中垣先輩はこの時点で休憩を入れたのだろう。自分が一人になりたかったのもあるかもしれないけど、私の思考が少し落ち着くために席を外したような気もする。


「私も休憩しよ」


 そんな独り言と共に立ち上がると、コーヒーメーカーをセットする。気分転換にはブルマンのスペシャルブレンドがいい。いつものブレンドよりも高級な豆を買ってきたのは、少しでも気分転換をしたいからだけど、買ってきて間もないのにこんなに早くの出番があるとは思わなかった。


 研究室にはコーヒーの芳しい香りが満たされ、ゆっくりと私の神経を解いていくような気がする。窓際のブラインドの隙間に指を差し込むと、緑に包まれた中庭が見えるようになっていた。眩いほどの外の光りを薄暗い研究室から見ると一層眩い。


「予想はしていたんだけど、でも、もう少し上手く行くと思ったのに」


 そんなに現実は甘くない。


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