あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 勇気を出したのに、こんな簡単に即答されると胸が痛くなる。こんなことなら勇気なんか出さなければよかったとさえ思い出した。考えてみたら、今日は木曜日だから、明日も仕事。そうなると今からの時間に会っても小林さんにとっては身体がキツイだけだろう。


 断られても仕方ない。そうは思いながらも、自分の中で出した最大限の勇気が萎んでいくのを感じた。勇気というのは勢いで最大限まで広がるけど、萎む時はゆるゆると縮んでいく。微かに残る勇気をだして、何事もなかったかのように私は振る舞った。


 我が儘を言ったのに、それが叶えられなかったくらいで、落胆する声をだしたら、きっと、小林さんは私に気を使うだろう。そして、無理をしてでも会いに来てくれるかもしれない。


『わかりました。また、今度会えるのを楽しみにしています』


『ちょ、ちょ。美羽ちゃん』


 急に慌てたような小林さんの声が耳に届いてくる。


『何ですか?』


『俺、今、美羽ちゃんのマンションの近くに来てるの。だから、俺のマンションの最寄りの駅には行けないってこと』


 まさか、『無理』の意味が私のマンションの近くまで来ているからだとは思わなかった。


 そんな小林さんの言葉に私の足は急に速くなる。走ることは出来ないけど、コンビニの袋を揺らしながら私は自分のマンションに向かって急いで歩く。すると、次第にマンションの姿が見えだして、マンションから少し離れた場所に小林さんの車が止まっているのが見えた。


 私が車が見えたと同時くらいに小林さんは車から降りてきて、私の方を優しく見つめていたのだった。


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