あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「でも、私がもう一年留学期間を伸ばしたということを中垣先輩の一言で覆るものですか?」


「まず、研究が始まる前に引き継ぎたいと言ったのは俺だけど、その前に、俺がスムーズにフランスに来れるようにと動いた人がいる」


「静岡研究所長ですか?」


「それもある。俺の上司だからな。でも、一番は本社営業一課課長だ。坂上の前の上司『本社営業第一課課長高見龍太』だよ」


 本社営業一課課長の威力は絶大だ。人事部に掛け合ってくれたとしか思えない。


「高見課長ですか」


「まあ、それともう一人。本社営業一課で高見龍太の横にいる折戸がフランスの橋渡しをしている」


 私の帰国のために本社営業一課の高見課長、それに主任の折戸さんが陰で動いてくれたのだという。フランス研究所に私の代わりに行く中垣先輩の優秀さを報告してくれたのだという。出来るだけスムーズに研究所を離脱できるように考えてくれていた。


「だから、坂上の帰国は決まったことだから、引継ぎを頼む」

 
 色々な人の優しさで私は日本に帰ることが決まった。帰国するということは小林さんに会うことが出来るということ。それが一番嬉しかった。


 交換留学というのは学校のゼミなどの係替えとは違う。一人の人が動くのにどれだけのことが起きるのかというのを私は自分がフランスに来る際に体験したことだった。一か月の時間を掛けて移動したのに、中垣先輩はトランク一つだけを持って渡仏してきた。


 引継ぎをして、それから日本に帰国後、改めて渡仏するという。


「男なんてそんなもんだし、俺は普段着が数枚と白衣があればどうにかなる」


 相変わらずだった。

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