あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 中垣先輩は本当にトランク一つで渡仏していた。


 私のアパルトマンの近くにあるホテルの一室を拠点として、研究所との行き来をすることにはなっているけど最初は研究所の片隅に住むと言っていた、でも、それはフランス研究所としてダメだということで渋々ホテルに帰っているようだった。


「どうせ寝るだけなのだから、どこでもいいのに」


「日本とは違います」


「寝るのも研究もどこでしても一緒だろ。で、ここの研究の時のことを詳しく教えてくれ」


 そんな小言をブツブツ言いながら、私から研究の引継ぎを受ける。私の時はキャルがいてくれたからよかったけど、中垣先輩は最初から研究の中枢に入っていく。少しでも困らないようにと思うからこそ私からの引継ぎも細かくなっていく。でも、優秀な人はどこに行ってもすぐに光を零しだす。私とキャルの研究成果を十分考察したと言い、既に余裕も見せ始めていた。


『協力はするけど、馴れ合いはしない』


 そんな中垣先輩にフランス研究所の人は戸惑ったみたいだけど、次第に慣れてきている。実際に抜群な頭脳を持った研究員の中垣さんが一目置かれだしたのもそう時間は掛からなかった。


 そして、私からの引継ぎは終わった。


 中垣先輩は一度日本に帰ってから、改めてフランスに来ることになる。それでも、研究のスケジュールを研究員が代わるからといってそんなに遅らせることは出来ない。中垣先輩のフランス到着と同時に新しい研究チームが発動する。私は少しの間だけ一緒に研究をして、落ち着いて来たら日本に帰国することになった。

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