あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
「おはようございます」


 研究室に入ると、中垣先輩は既に仕事に入っている。真剣な表情のままパソコン画面から視線は離せないようだった。昨日の研究の続きだと思うし、期限が迫っているからお互いに頑張らないといけなかった。それにしてもまだ始業前なのに中垣先輩のエンジンは全開だった。


「ああ。来て早々に悪いけど、共有ファイルの中からデータを打ち込む表を出して。午前中には所長が必要らしい。それと、昨日の実験の経過を数値にして、レポートを起こしてくれ。それを俺のパソコンに転送」


「はい」


 私は自分の荷物を片付ける間もなく、机の前に座るとパソコンのキーボードに手を乗せた。中垣先輩から言われたとおりにパソコンの中から所長へ渡す書類を選び、プリントアウトする。ファイリングしてから所長の部屋に届けた。研究室に戻ってくると、隣の実験室に行き、昨日からの実験の経過を数値をチェックしてから、それをパソコン上で纏める。数値を間違えないようにレポートを作ってから中垣先輩のパソコンに転送するとフッと息が漏れた。


 中垣先輩は自分がフランス留学に行くからと今の研究をどうにか形にするつもりだと思う。それだから、こんな風に次から次へと仕事を進めていく。息つく暇もなく進んでいく仕事に昨日よりもスピードが上がっている感じがする。

 
 明らかに違う。


 中垣先輩の性格を考えると中途半端にするくらいなら仕上げてからフランスに行きたいのだと思う。仕上げることが出来なくてもそれなりの道筋はつけるつもりなのだろう。
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