あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 食事が終わると、妙に私の部屋にはテレビの音が響き、私は食べ終わったお弁当の空を片付けると小林さんの横にゆっくりと腰を下ろす。三十センチの距離が今の私には一番いい距離なのかもしれない。この三十センチの距離を縮めると小林さんに近付くことは出来るけど、その分、息が苦しくなる。


 かと言って、離れると二人の間を通り抜ける空気が多すぎて身体が冷えてしまうかもしれない。だから、この曖昧な距離にホッとする。


 テレビを見ながら、二人でコーヒーを飲んでいると、フワッと私の手の上に小林さんの手が重ねられた。吃驚として見上げると、小林さんはニッコリと笑っていて、何も言わないのに『いい?』って聞いてくるから、私はそのまま手を動かさなかった。


 きっと小林さんにはそれで通じるはず。


 時間は夜の十一時を過ぎていた。


 明日の仕事と小林さんが自分のマンションに帰ってから仕事に向かうことを考えたらそろそろ寝る時間だった。でも、私から『そろそろ寝ませんか?』というのはどうなんだろう。付き合い始めた私と小林さんは二人での時間も過ごしていることだし、二回目があっても可笑しくない。


 でも、それは私が考え過ぎていることであって、真横にいる小林さんは普段通りにテレビを見て笑っている。


「美羽ちゃん。そろそろ寝るよね。美羽ちゃんがシャワー浴びている間に俺、コンビニ行ってくる。下着とシャツくらい買ってくるから、鍵借りていい?」
 
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