あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
第六章

真実を知った時

 少しの時間だけど、小林さんの腕の中で時間を過ごすことにした。眠れるはずもないけど、こうして抱かれているだけで心が安らぎ、気持ちが緩やかになる。そして、私がいつの間にか寝ていたのを起こしたのは聞きなれない音だった。


 それは小林さんの携帯のアラームだった。小林さんが起きないといけない時間をあらかじめ設定していたのだろう。いつもは目覚まし時計なしでも起きられるのに、こんな機械音で目を覚ますのは初めてだった。この音が無かったら寝坊していたのではないかと思うくらいぐっすりと寝ていた。


 小林さんは目を閉じたまま、音のする携帯に手を伸ばすと、少し目を開けて、携帯を弄る。そして、アラームが止まるとフッと息を吐いた。まだ眠くて仕方ないようで、私の身体を抱いたまま身体を捩る。私の身体は自由になることを許さないかのようにしっかりと包まれていた。


「小林さん。おはようございます」

「ん…。おはよ」


 おはようと言いながらも全然起きる気配はない。でも、さすがに家に帰るのだから間に合わなくなる。


「家に帰って会社に行くんですよね」

「行くけど、眠い」


 そう言いながら小林さんは自分の腕で目を覆う。二人で寝る狭いベッドではよく眠れなかったのかもしれない。 私は温かい温もりに包まれて気持ちよく眠れたけど、小林さんのその仕草から眠くて仕方ないというのが見るだけで分かった。
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