あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 ここで何も考えられなくなれればいいのに、私はそんなことが出来ない。小林さんのことを考えれば私が小林さんを引き留めるわけにはいかなかった。私の部屋に泊まった次の日に会社を遅刻なんかさせたら、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 一緒に居たいのに、でも、ここは自分を抑えないといけないということ。これだけは私にも分かっている。でも、小林さんはとっても気持ちよさそう。でも、起こさないといけない。


「小林さん、あの……一緒にコーヒーを飲みたいです」


 一緒に食事する時間はない。ならせめて一緒にコーヒーくらいは飲みたい。タクシーが来るまでの少しの時間でもいいからと自分の気持ちを言ってみる。


「一緒にコーヒー飲みたいです」


 小林さんは私の声が聞こえたのか、ゆっくりと身体を起こすとそのままベッドに中に私を引き摺り込み抱きしめた。


「俺も。でも、その前に、もう一度美羽ちゃんを抱っこする」


 いきなりの小林さんの行動に驚きながらも私は小林さんの胸の中で目を閉じる。幸せを感じ、このまま時間が止まればいいと思うのに、私の身体が自由になったのはすぐのことだった。小林さんも時間がないことくらいは分かっているのだろう。
 

 小林さんは身体をゆっくりと起こした。眠そうに髪をガシガシ掻きながら、ニッコリと笑う。その無邪気さに笑いが漏れる。眠たくて仕方ないけど、一緒にコーヒーも飲みたいと思ってくれているみたいだった。



「おはよう」
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