俺様御曹司と蜜恋契約
「よく知らねーけど。片思いなんてさっさとやめて好きなら好きって言えばいいんだよ」

「……」

それができなかったからこうして引きずっているのに。私の恋の事情を知らないくせに勝手なこと言わないでほしい。


相手を好きだっていう気持ちだけで想いを伝えられないときだってあるのに……。


「葉山社長には関係ないので」

止まっていた手を再び動かし、鍋の中に残っている最後の一つのロールキャベツをお皿に盛った。その上からスープをかけると出来たてのそれは熱々で湯気がのぼっていく。

「できましたよ。温かいうちに食べましょう」

ロールキャベツがたっぷり盛られたお皿を両手で持ちダイニングテーブルへ運ぼうとすると背中に声を掛けられた。

「また泣くのか?」

その言葉に立ち止まる。

「……泣いてませんけど」

「でもこれから泣くんだろ?」

「泣きません」

そう言いながら私の手が震えている。正直、少し泣きそうだった。陽太の話題はできればしてほしくない。

震える手で、せっかく作ったロールキャベツのお皿を落とさないように必死に持つ。すると背中から葉山社長が深いため息をつくのが分かった。

「言っただろ?俺はお前の涙には弱いんだって」

だから泣くな。
そう言うけれど、私を泣かそうとしているのは葉山社長だ。

陽太の話はやめてほしい。私の恋に触れないで欲しい。そっとしておいてほしい。2年前のあの日からそうやって自分の気持ちを隠してきたのに。それなのに。


「あなたが陽太の話をするからっ」


気が付けば大きな声で叫んでいた。

「私が誰を好きでもどんな恋をしていてもあなたには関係ないです。そうやって踏み込んでこないでください」

あの日から私は陽太への想いにフタをした。

私は自分の恋から身を引いて優子の幸せを願うって決めたのに。それなのにこんなに未練が残ってる。陽太への想いを忘れられない。今さら閉じたフタを開けたりしたらいけないのに。
< 111 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop