俺様御曹司と蜜恋契約
もしも陽太に好きだと言ってもらえたあの日に戻れたら私は…………。

「――花」

耳元で名前を呼ばれたかと思うとふわっと背中に温もりを感じた。葉山社長が私をすっぽりと背中から抱きしめている。

「俺が、お前の恋を忘れさせてあげようか?」

私のお腹の前に回された腕にぎゅっと力がこめられる。

「俺のこと選んでくれたら他の男のことなんて思い出さないくらいに愛してやるよ」

「……っ」

真剣にそう言ってくれているのか、またいつものようにからかわれているだけなのか。今までの葉山社長の言動や行動からたぶん後者だと思うけど。でもそう告げる葉山社長の声は普段よりもさらに低くて。自分の言葉にはいつも自信たっぷりで話すはずなのに少しだけ震えているようにも感じた。

陽太のことを想って泣いてしまった観覧車でのことを思い出す。

あのときも葉山社長は私のことを抱きしめてくれた。

優しくなんてしてほしくないのに……。

この人は、私たちの商店街に再開発計画をたてていた会社の社長なのに。


「なーんてな。冗談だよ」


そんな言葉と共に私のお腹に回されていた葉山社長の腕が離れていき、背中にあったぬくもりが消えた。

「ほら、早く食おうぜ」

葉山社長が私の手からロールキャベツの入ったお皿を取りそれをダイニングテーブルへ運ぶ。

「腹減ったなぁ」

そう呟いている葉山社長はいつもと変わらない飄々とした様子だった。



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