俺様御曹司と蜜恋契約

 「久し振り…」





キーボードを打つ手を止めた私の視線はデスクの隅に置かれた卓上カレンダーへと向かった。

6月の第一周の土曜日はもうあと5日後に迫っている。その日は陽太が実家の和菓子屋を継ぐ日だ。

「どうしたの花。カレンダーなんてじーっと見てるけど」

隣の席の持田さんに声を掛けられて「何でもありません」と視線をパソコン画面に戻すと再びキーボードを打ち始めた。

すると周りを確認した持田さんがイスを動かして私へと近付いてくる。

「ねぇねぇ葉山社長とはどうなってるの?」

耳元で囁かれた言葉に、私はビクッと体が跳ねた。

持田さんはもう一度周りを注意深く確認する。フロアには今、私と持田さん。それから穂高部長の3人だけで、他の男性社員たちは外に出ていて不在だ。それを長話できる環境だと思ったのか、持田さんが私の耳元で言葉を続ける。

「この前の合コンにも来ていた葉山グループ本社にいる友達から聞いたんだけどね。葉山社長、最近どの女性の誘いにも乗らないんだって」

「そうなんですか?」

「うん。女遊びやめたらしいよ」

「へぇ……」

それは知らなかった。

「花はまだ葉山社長と会ってるの?」

「…はい」

私が小さく頷くと持田さんは首を傾げて何か言いたそうな表情を浮かべる。

「他の女性とは会っていないのにどうして花とだけは会っているんだろうね、葉山社長」

「それは取引が………」

と言いかけた口を手で押さえる。

優子にはこの前うっかり話してしまったけれど持田さんには黙っておきたい。

「取引?」

しかしつい口から滑ってしまった言葉をしっかりと聞き取っていた持田さんが聞き返してくる。

「えっと……大事な取引があるって言って葉山社長は忙しいみたいなので私も最近は会っていないです」

それは本当のことだ。

ロールキャベツを一緒に食べた日から葉山社長は海外へ出張に行ってしまった。あれから1週間会っていないし連絡もない。大事な取引というのは付け足したウソだけれど…。
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