俺様御曹司と蜜恋契約
「それじゃあ湯本くんはここで待っていてね」

少し前を歩いていた穂高(ほたか)部長が私を振り返った。

40代後半の部長はメタボ気味でお腹がぽっこりと出ている。そのせいで今日もスーツのボタンがはち切れそうだ。

「はい。打ち合わせ頑張ってくださいね」

笑顔でそう言えば、穂高部長が真ん丸な顔をニコッと緩ませた。

「終わったら会社に戻る前に一緒にランチでもしようか」

「あ、いいですね。もちろん部長の奢りですよね?」

冗談っぽくそう言えば「もちろん」と穂高部長が頷いてくれる。

「それじゃあ行ってくる」

たくさんの書類が入った紙袋を両手に持った穂高部長がエントランスの奥へと歩いて行った。

その後姿が見えなくなると、私は近くにある来客者用のソファに腰を降ろす。建物の雰囲気からかついつい背筋を伸ばし正しい姿勢になってしまう。

今日は急遽、穂高部長の付き添いで親会社の本社ビルへ来ることになった。打ち合わせに参加する部長の大量の書類持ちの手伝いだ。2人で書類の入った紙袋を両手に持ちながら電車移動でここまで来た。

本当ならただの事務員の私の仕事ではないのだけれど、いつも部長と一緒に打ち合わせに来ている男性社員さんが今日は体調不良で休んでしまった。他の男性社員さんたちもそれぞれの仕事を抱えているし、出先に出ていて不在。そこでたまたま手の空いていた事務員の私が部長の付き添いをすることになった。

打ち合わせに参加しない私は穂高部長が戻って来るまでエントランスにある来客者用のソファで時間を潰しているのだけれど。


「--ふわぁ~」


思わず欠伸が出てしまい慌てて手で口元を隠した。

今日の私は少し寝不足だったりする。
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