俺様御曹司と蜜恋契約

 「守ってやるから」





雨が降り出しそうな土曜日の午後。
父親に頼まれて食堂で使う食材の買い出しへ出かけた。終わって家に戻るとまずは食堂へ向かい買ってきたばかりの食材を冷蔵庫へとしまう。

「ふぅ…」

袋いっぱいに入った食材を両手に持ちながら商店街を歩き回っていたらさすがに疲れてしまった。でもこの仕事を還暦の両親は毎日こなしているんだよね。食材を調達してお店で料理を作る。あらためて両親はすごいと思った。

できれば休日は仕事で疲れた体を休めたいけれど私もこれからはお店に出て両親の手伝いをした方がいいのかもしれない、と最近では思うようになっている。

食材をしまい終えると家の中に入り居間へと向かう。そこでは両親が夜の営業の準備を始めるまで少し休憩を取っているはず。

「ただいまぁ」

そう言って居間のふすまを開けたとき、そこにいるはずのない人物を見つけて思わず固まってしまった。

「よぉ、花!」

「なっ…なんで」

そこには両親とお茶を飲んでいる葉山社長の姿があった。

「あらやだ。花ちゃんったらそんな恰好で出掛けていたの?」

「えっ」

母親に言われてから、そういえば…と慌てて自分の服装を確認する。下は高校時代に着ていた体操着の小豆色のジャージ、上は白と黒のボーダー模様の七分袖のシャツ。髪の毛はくしゃっと一つに後ろにまとめただけ。そしてもちろんすっぴん。

買い出しといっても商店街のお店で済むものばかりだった。八百屋、魚屋、精肉店、青果店。うちの食堂のメニューのほとんどは商店街のお店から仕入れている。

近所に行くだけなのでかしこまった格好をせずに部屋着でふらりと出掛けたのだけれど、まさかこんな姿を葉山社長の前でさらしてしまうなんて。さすがに少しだけ恥ずかしい。でも今はそんなことを気にしている場合ではなくて。
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