俺様御曹司と蜜恋契約
振り向くとそこにいたのは穂高部長だった。

「げっ、部長」

私にだけ聞こえる声で持田さんがボソッと呟く。当の本人はそんな持田さんにはまったく気が付いていないようでにこにこと微笑んで私たちのいる席に近付いて来た。

こんなところで会うくらいなのだから穂高部長もお酒を飲んでいるようでふっくらとした頬がほんのりと赤く染まっている。

「二人で飲んでいるの?」

「はい。部長もどなたかとご一緒ですか?」

穂高部長の問いに答えたのは私。持田さんは穂高部長に興味がないようで背中を向けてビールを飲み始めている。

「僕は社長と飲んでいたんだ」

「社長ですか?」

「そう。他にも課長とか他の部の部長もいるけどね」

うちは小さな会社だから社員同士の距離も近い。社長は普段から社内の廊下をふらふらと歩いているし、気軽に社員に声を掛けている。こうしてたまに部長たちと一緒にお酒を飲んでいることも聞いたことがある。

「次の店に行こうとしたんだけど社長が明日の朝早いって言うからみんな帰ることになったんだ」

「そうなんですか」

明日は休日のはずなのに社長は明日も仕事なのだろうか。葉山社長もそうだったけど会社の規模に関係なく社長はどこも大変なのかもしれない。

「お忙しいんですね、社長」

「そうだよね。明日はホテルで親会社の新社長就任パーティーがあるらしくてそれに出席するらしい」

「……え」

明日なんだ。
明日の新社長就任パーティーで葉山社長は本当に葉山グループの社長から降りてしまう。そして新社長は叔父さんに変わってしまって、葉山社長は海外支店へと行ってしまう。

「前社長の光臣社長が辞めるのはもったいないよね。せっかく売り上げを倍に伸ばしたのに。社長を退任して海外支店行きかぁ」

穂高部長の独り言のような呟きに私は思わず俯いてしまった。
< 184 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop