俺様御曹司と蜜恋契約
でもなんだかさっきのやりとりで張りつめていた糸がプツンと切れたように体の力が抜けた。

この人にもうよけいなことを喋らせないように早く本題に入ろう。

ふぅ、と小さく息は吐く。

「お忙しいのに呼び止めてしまってすみませんでした」

そう言って頭を下げれば「いえいえ」と葉山社長が笑いながら答えてくれる。

「私は葉山グループの子会社の葉山物流の社員の湯本花といいます」

まずはきちんと自己紹介から。

「ハナかぁ。可愛い名前じゃん。漢字はどう書くの?」

「漢字ですか?…えっと、草かんむりに化けるで花です」

「花ね。お前にぴったりな名前だな」

「………どうも」

そんなこと言われたのは初めてだけど。褒め言葉だと思って一応礼をしておく。

というかいきなり名前に食いつかれてなんだかまたペースを乱されてしまった。

コホン、とひとつ咳払いをする。

「それでお話なのですが」

「うん。なに?」

「森堂商店街をご存じですよね」

「もちろん。うちが再開発を計画しているところだろ」

「はい」

私が頷くと葉山社長はソファの背もたれによりかかり腕を組んだ。

「それで?」

と、話の続きを促してくる。

「私の実家がその商店街で食堂を営んでいるんです」

「食堂?」

「はい」

「食堂って……」

すると突然、葉山社長がソファの背もたれから背を放し前のめりの体制になった。

「森堂商店街に食堂っていくつある?」

「え?えっとうちだけですけど…」

「前からか?」

「……はい」

そんなこと聞いてどうするんだろう?

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