俺様御曹司と蜜恋契約
駅を出てしばらく歩くと森堂商店街に入った。

「あら、花ちゃんおかえり」

店先で団子を焼いている田中のおばあちゃんに声を掛けられた。

今年91歳になる彼女は森堂商店街で『田中団子屋』というお店を営んでいる。いつも店先で団子を焼いているから私の姿を見るとこうして声を掛けてくれる。

田中のおばあちゃんは商店街では最高齢の人なのに、腰も真っ直ぐに伸びているしいつも明るくて元気なおばあちゃんだ。私が小さい頃からもう彼女は『おばあちゃん』だったので私は彼女のことを『田中のおばあちゃん』と親しみを込めて呼んでいる。


「こんばんは」

立ち止まって挨拶をすれば田中団子屋の名物しょうゆ団子の香ばしい香りが漂ってきた。

そういえば子供の頃、学校からの帰り道によくお団子を貰っていた。田中のおばあちゃんは私のことをまるで本当の孫のように可愛がってくれていて『おやつに食べなさい』ってお店のお団子をよく渡してくれたっけ。

名物のしょうゆ団子の他にも、みたらし、あんこ、ずんだ、ごま。田中のおばあちゃんの手作り団子はどれも美味しいんだよね。


「そうだ、花ちゃん。ちょっと待ってなさい」

子供の頃のことを思い出していると、田中のおばあちゃんがすたすたとお店の奥に消えてしまった。しばらくして戻ってくるとその手に透明のタッパーを持っている。

「これお店のあまりだから。家に持って帰りなさい」

「え、いいの?」

「いいよいいよ」

顔を皺だらけにして田中のおばあちゃんが笑みを見せる。

「今日はすんごく良いことがあってね。調子に乗ってお団子をいつもよりも作り過ぎてしまったんだよ」

「良いこと?」

何があったの?そう聞き返すけれど田中のおばあちゃんはにこにこと微笑むだけで『良いこと』を教えてはくれなかった。ま、いいか。

「田中のおばあちゃん。お団子ありがとう。家に帰って食べるね」

私はお団子の入ったタッパーをカバンにしまった。

それから田中のおばあちゃんに挨拶をして再び帰りの道を歩く。

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