怨み赤子
お母さんがなめられていたとしても、このあたしをなめることは許さない。


消しゴムのカスを無視するようになったユキに、あたしは落とした鉛筆を拾うふりをして近づいた。


鉛筆を拾って立ち上がると同時にユキの机の上の物を豪快に落とした。


バサバサと音を立てて床に落ちていく教科書やノート。


隠れるものがなくなったユキは口の周りにチョコレートがついたまま焦り始める。


「おいおい、何してんだよお前は」


これには先生もあきれ顔で、教室内は大きな笑い声に包まれた。


「ブタが更にブタになるぞ！」


「授業中もずっと食べてるなんて、胃袋おかしいんじゃないの？」


あちこちからユキをののしる声が聞こえて来る。


みんな表だってイジメに参加することはないが、こうしてあからさまに可笑しいと思える所を作ってやればすぐに食いつくのだ。


先生もユキの行動に呆れてしまってフォローしようがないように、ため息を吐き出した。


あたしはクスッと笑って自分の席に座った。


自分の髪の毛に触れてみると、ついさっきよりも艶が出ていることに気が付いた。


こんな事で魅力が手に入るなんて、なんて簡単なんだろう。


クラス中からののしられているユキを横目にあたしはほほ笑んだのだった。
< 111 / 143 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop