専務と心中!
二段駆け
あれ?
一緒に出勤してきたはずの恋人が朝礼にいない。

キョロキョロしてると、南部室長にジロリとねめつけられた。


我が社の大会議室では、曜日ごとに部単位の朝礼が行われている。
毎週月曜日は、総務部。
広報課社史編纂室勤務の私と、秘書課主任の恋人・椎木尾(しぎお)さんが、業務時間中に顔を合わせることのできる唯一の機会なのに……。

部内各課長からの報告と、平社員による持ち回りの3分スピーチの後、部長からの重苦しい叱咤激励。
普段の朝礼はこれで終わるが、今朝は専務が臨席していた。

見るからにお育ちのいいおぼっちゃんがそのまま歳をくったような風貌の専務は、遠目にもニコニコしてる。
部長に恭しくマイクを差し出された専務は、期待を裏切らない脳天気な挨拶をしたあと、いつもの言葉で締めくくった。

「みなさん、幸せになりましょう!」

……今日もバカ殿だわ~。

冷めた失笑に気づかないのか、専務は笑顔でマイクを部長に返して着席した。
部長は咳払いしたあと、ことさらに重々しい声と言葉で朝礼を終えた。



会議室から出たところで、秘書課の女子社員に声をかけられた。
「布居さん、椎木尾主任から伝言。ランチに間に合わへんと思うってー。朝一で社長宅に呼び出されはって。」
「あー、ほんで朝礼もいはらへんかったんや。ありがとう。」
お礼を言ってから、ため息をついた。

ランチ、予約してたのにな。
せっかく人気のお店にやっと行けるのに。
……キャンセルしたくない。


廊下を歩きながらスマホをいじる。
椎木尾さんからの連絡は、ない。
……役員秘書という立場上、椎木尾さんは秘密漏洩の恐れの高いラインアプリを使わない。
てか、そもそもメールも電話もほとんどない。
そういうヒトだ。



隣の棟の社史編纂室に戻ると、次はたった2人の朝礼。
南部室長が先ほどの私の無作法を、オブラートに包んでたしなめた。
京都人は頭ごなしに怒らないから、受けるストスとダメージは少ないけど……それでも直属上司の評価ダウンは堪える。
……あーあ。



南部室長が席を外した隙に、ラインを立ち上げる。
こんな時ピンチヒッターを頼めるのは、幼なじみの水島薫。

<時間ある?ランチ一緒に行かへん?>

この時間なら街道練習中だろうと思ったのに、意外と早く返事が来た。

<O.K.>

よし!
あ、でも!

<ちゃんとしたところやから、練習着で来んといてや。Tシャツもダメ。普通の格好できてね。ヤクザみたいなスーツもやめてや。>

慌ててそう送ったら、かわいいスタンプでの了承が届いた。

……ほんまに大丈夫かな。
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