専務と心中!
碧生くんからは、少し遅れてメールが届いた。

<ニュース見ました。酷い誤報です。心無い報道に布居さんが傷付きませんように。あまり心配しないでください。謡いの師匠も仲間も、ごいっちゃんが分不相応の蒐集僻があったことを認識していますし、証言できます。統は関係ないことも、すぐに証明できます。>

ホッとすると同時に、「誤報」の文字が怖い。
いったい、どうなっているのだろう。

社史編纂室の窓のブラインドの隙間から見下ろす。

……けっこうな、人だかり。

なるほど、仰々しいカメラや、テレビカメラも見える。

もしかして、私、帰れない?
うーん。

逆に廊下に出ようと、ドアを開けた。
ら、秘書課の女の子達が、ひそひそ話をしてるのが見えた。

……そうか。
役員総出で会議してるから、秘書課も帰れないんだ。
椎木尾さんのことも心配だろうし……。


「布居くん。」
不意に背後から声をかけられた。
南部前室長だ。

「南部さん……。」

また、新たな涙がこみ上げてきた。

「大変やったな。……こんなことにならんうちに、何とかしたかったんやけど……力、及ばなかったようだ。……残念や。」

南部さんは、がっくりと肩を落としてしょげていた。
責任を感じてらっしゃるようだ。

「……やっぱり、何か、ご存知だったんですね。」
そう尋ねると、南部さんは無理やりな苦笑を見せてくれた。

「ああ。横領には気づいていたし、椎木尾くんの仕業だということもわかっていた。……布居さんが関与してないことも……専務が無理やり巻き込まれたことも。」

無理やり?

「あの。専務は?どうなるんでしょう。……専務、悪くないですよね?」
思わず、南部さんに詰め寄った。

南部さんは困ったような顔になった。
そして、ため息をついた。
「……わからん。専務は、横領には関与していないことは確かだと思う。でも、部下のやらかしたことだ。責任の追及を免れないだろう。」

責任!?

何の責任?

意味がわからない。

「とりあえず、ご自宅のご両親と連絡をとって、帰宅が可能か聞いてみたほうがいい。無理そうなら、親戚か友達の家に身を寄せるか。いっそ有給使い切るまで休んで海外にいるのもいいんじゃないか。……数日の辛抱だろう。たいしたニュースじゃない。すぐ忘れられる。」

南部さんはそう言って、私の肩をポンポンと叩いた。

「今だけだ。がんばれ。」
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