専務と心中!
返答に窮しながらも、私が迷惑がってないことは伝わったらしい。
専務は、ニコニコして何度もうなずいた。

「じゃあ、明後日。楽しみにしてるよ。おやすみ。」
意外とあっさりそう言って、専務は私のドアを開けてくれた。

何となく拍子抜け。
……なるほど。
送り狼じゃないな。

とりあえず車を降りて、専務を見送ろうと歩道の端に立った。

「今日は、ありがとうございました。お気をつけて。おやすみなさい。」
そう言って深くお辞儀した。

すると、専務が声をかけた。
「頭、上げてくれたほうがうれしいよ。……にほちゃんの笑顔が見たいんだ。」

……勘弁してください。
手は出さなくても、そうゆうことは言っちゃうんだ。
てか、無理。
笑えない。

私は渋々、頭を上げた。
専務は、くっと笑った。

……自分がどんな顔をしてるか、わからないけど……たぶん、赤面してる。
頬が熱い。
胸がドキドキする。

専務はご機嫌さんでうなずいた。
「かわいいな。にほちゃん。またね。ありがとう。」

……機械に対するのと同じ「ありがとう。」だ。
自然と感謝の気持ちを表現するヒトなのだろうか。

って!
私、感謝されるようなこと、何もしてないのに。
むしろ、御祝儀もらったり、夕食ご馳走になったり……。

私もお礼を言い返そうとしたその時、専務は、なんと投げキッスを寄越した!

ひーーーーーっ!!!

何ごと!?
日本人だよ?
専務、日本の中年のおっさんだよ?

そういや、ウィンクもしてたっけ。

……信じらんない。

じたばたしてる私をカラカラと笑いながら、専務は車を出した。
普通の乗用車よりうるさい音を立てて、専務の車は闇にとけ込んだ。



翌日は、ゆっくり起きて、昼を食べてから家を出た。
薫のレースは10レース、泉さんは12レース。
……今日はもう、目ぇつぶって、薫、頭(1着)流しだな。

おっと。
ゆっくりしすぎて、駅からの無料バスがなくなっちゃった。
仕方ない。

最寄りの小さな駅から住宅街をてくてく歩いて競輪場へ。
車券を買ってから、ふらりとバンクのそばに行った。

ん?

ゴール前で、中沢さんが薫の今の彼女と話してるみたい。

……ほんとに、泉さんに紹介する気かしら。
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