専務と心中!
じとーっと見てると、中沢さんが私に気づいたらしい。
中沢さんは大きく手を振って私に存在をアピールした。

わかったわかった!
小さくひらひらと手を振って、私は第4コーナー付近まで移動した。


9レース終了後、10レースに出場する選手の脚見せが始まった。

「水島くーん。」
一応、当たり障りなくそう叫んでみたけど……つい出来心で、背中にかぶせて叫んじゃった。

「ぶっちぎってー!」

……ラインの2人には悪いけど、筋違いで決まったほうが配当がいいんだもん。

何となく薫の両肩が上下に揺れたような気がした。
ちゃんと聞こえらしい。

……てことは……よし!

薫を頭(1着)で総流し(2着を全通り)で千円ずつ買ったけど……私は珍しく慌てて買い足しに走った。
筋違いの2つのラインの二番手三番手をさらに3千円ずつ追加購入。

……これなら、二車単でも万車券まであるわ。

「え?どうしたの?水島くん、いつもちゃんと後ろを連れて来るじゃん。競りとかないのに、筋違いでいいの?」
いつの間にか中沢さんがすぐ後ろにいて、私のマークシートをのぞきこんでいた。

「こんにちは。中沢さん。昨日はありがとうございました。楽しかったし、美味しかったです。」
そう言ってから、小声で付け加えた。
「さっき、薫に『ぶっちぎれ』って叫んだんです。」

「……えーーー。布居さん、それ、八百長だよ。」
中沢さんはそう言ってニヤニヤ笑った。
「でもいいこと聞いちゃった。僕も買い足そーっと。」
いそいそと中沢さんは、穴場へと走った。



10レースがスタートした。
薫が……かすかに私を見上げた気がした。

そして、前を睨むその瞳には、闘争心。
……かっこいいなあ。

明日の夜、薫はちゃんと今の彼女と過ごすのだろうか。
また、私を求めるのだろうか。
薫のたくましい筋肉の躍動を観ていると、身体の奥が甘く疼いた。

「……水島くん、珍しく中団からだね。」
中沢さんのつぶやきに、私はうなずく。

明確に先行しようという意志があるラインは、たいてい後方に位置する。
もちろん、最初からずっと「正攻法」と呼ばれる先頭誘導員の後ろの位置にいて、徹底先行で逃げることもあるけど。
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