専務と心中!
南部室長と部屋に戻ると、廊下に学生らしき男性が2人立っていた。

1人は真面目を絵に描いたような地味でイイヒトそうな子、もう1人は見るからにチャラそうな派手めなイケメン……こっちが天花寺(てんげいじ)くんだ。
……仕立てのいいちゃんとした紺のスーツを着てきてるし、決して派手じゃないのに……何で、履歴書の写真よりも、一段とチャラく見えるんだろう。

「おはようございます。本日よりお世話になります。よろしくお願いいたします。」

……正直なところ、びっくりした。
チャラさを微塵も感じさせない、美しいご挨拶とお辞儀だった。

なるほど、外見に反して、やっぱりちゃんとしたヒトなのか。
お能の世界にどっぷり傾倒してはるんやもんね。

緊張していたらしい南部室長も、上機嫌で2人と話し始めた。

4人で頭を突き合わせての業務が始まった。
学生2人は、確かに優秀なのだろう。
私達に専門的な素養がないことを聞いて、既に執筆委員の先生方と具体的な進め方を相談してきてくれたらしい。
私が途方に暮れていた撮影も、資料の収集についても全面的に助けてくれるようだ。

大船に乗った気分かも。
あからさまにホッとしてる南部室長と私に、D1の学生くんがニッコリほほえんで太鼓判を押してくれた。

「大丈夫です。碧生(あおい)の能力は折り紙付きですから。僕は凡庸ですが、自治体史と学校史の編纂にたずさわってきた経験を、こちらで活かせると思ってます。」

……いやいや。
自分で凡庸とか言える学生が、凡庸なはずない。

実際、彼らはできる子だった。
その日のうちから2人は資料の収集を始めた。
社内の倉庫に眠っているそう古くない資料を掘り起こし、美術館の峠さんの作ったデータベースから文献資料をピックアップした。
それらを全て撮影するらしい!

「え!?マジで!?それって、すっごい量じゃない!?」

2人を連れてランチに行ったけど、個人的な話をする隙がないほどに意欲的で圧倒された。

「そうでもないですよ。なあ?」
「はい。複写台もあるし、セッティングすりゃどんどん撮れますし。任せてください。」

2人は本当に頼もしかった。
……出張にもついてきてくれないかしら。


お会計を済ましてお店を出る。
「あ。じゃ、俺、煙草吸ってから戻ります。」
D1の子はそう言って喫煙所へと向かった。

天花寺(てんげいじ)くんと話すチャンス到来だ。
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