専務と心中!
翌朝、電車で顔を合わすなり、椎木尾さんが聞いてきた。

「おはよう。昨日はどうだった?勝った?」

……椎木尾さんが競輪の話を振ってくるのって、初めてかも。

「うん。友達は負けちゃったけど、その師匠が勝ったから。私も、潤ったよ。ランチ、私がおごろうか?」

でも、椎木尾さんは半笑いを顔に貼り付けて首を横に振った。
「いや。……たぶん数日間専務が休まれるから……調整でバタバタするはず。今日は無理やと思う。あー、バイトの学生くん達、今日からだろ?彼らにご馳走してやれば?」

ふむ。
それも、ありだな。

「わかったー。そうする。」
どこ行こうかな~と、あれこれ候補を考えてると、椎木尾さんが慎重に切り出した。

「にほ、昨日の夕食、もしかして、専務と同席してた?」

!!!

何で知ってるの!?

あ!
まさか、専務!?
椎木尾さんに何か言っちゃったの!?

いやいやいや。
とにかく、落ち着け。

冷静に。
冷静に。

「うん。えーと、友達の師匠と仲良しのおじさんが、専務の学生時代の親友だったとかで、本場(ほんじょう)に来られてたの。びっくりしたよ。……これって、社内ではもちろん内緒のほうがいいのよね?」

逆にそう質問をすることで、椎木尾さんに隠し事をしてるわけではないことをアピールした。

「そうやな。競馬やカジノならともかく……自転車は外聞悪いからな。」

当たり前のようにそんなことを言う椎木尾さんに、閉口した。
私の友達が、その競輪選手なのに。
私も、応援に行くのに。

……他のギャンブルと比較して、競輪が低く見られることが腹立たしい。

てか!
カジノって、今の日本じゃ違法なのに。
そんな違法なところに出入りして、ルーレットやバカラを楽しんでる椎木尾さんに、毎日一生懸命練習してる薫を蔑んでほしくない。

むかつくむかつくむかつくー。

私の憤懣に気づかないのか、気にしてないのか……椎木尾さんは飄々としていた。

何だか、いつも以上の違和感を覚えた。
もう、あとはタイミングだけかな……破局するの。


会社に入り、椎木尾さんと別れてロッカーへ。
制服に着替えてから、月曜恒例の朝礼に向かった。
当たり前だけど、専務はいない。
部長からも特に触れられなかった。

淡々と過ぎていく退屈な時間。

私に関係あったのは、室長の南部さんが社史編纂室に今日からバイトの学生が来ることの報告をしたことぐらいかな。

……椎木尾さんがやたらニコニコ反応していた。
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