専務と心中!
口を閉じた私の前に、専務が片膝をついた。

私の手を取って、恭しく口づける。

「その……俺は、宝石やブランドのことはよくわからなくてね。でも、にほちゃんには、無色透明の石より、快闊でかわいい色の石のほうが似合うと思って、お花さんにも相談して買ったんだが……子供っぽいだろうか?」

明らかに最高級品の宝石を石呼ばわりする専務に、苦笑が漏れた。

……やっぱり、かわいい。

イロイロ足りないし、イライラさせられることも多いけど……専務自身の純粋培養なかわいらしさと、私に対する曇りのない愛情には、結局これからも流されてしまうのかもしれない。

私は、諦めて、小さく息をついた。

「……じゃあ、お花さんは、私のこと、反対してらっしゃらないんですね?……そうですね……社長と、息子さんが反対じゃないなら……専務のお申し出をお受けします。」

私の言葉に専務の表情がくるくると目まぐるしく変化した。

最後は真面目な顔で、ぶんぶんと首を縦に振った。

「わかった!……まあ、社長は反対しないと思う。聡(さとる)も……にほちゃんに紹介した感じ、特に反対しないだろうけど……明確な同意を得てこよう。」

そう言って、専務は私の左手の薬指に、ピンク色にギラギラ光る指輪をはめた。

「……これって、何て石?ルビーじゃないですよね?」

ルビーやガーネットより淡いピンクだし、何よりこのカッティング……ダイヤにしか見えない。

「ダイヤだよ。ピンクダイヤ。オーストラリアのアーガイル鉱山で採掘されたものらしい。もっと濃い色のほうが値段が高いらしいんだけど、お花さんがにほちゃんには淡い色のほうがいいって言うから、それを指輪にしてもらった。……確かによく似合ってるな。」

専務は目を細めてそう言った。

……つまり、ホンモノのピンクダイヤ……なのか。

淡いと言っても、しっかりピンク色。
これ、めちゃめちゃ高いんじゃないだろうか。

うれしいけど……プレッシャーかも。

「似合う?……今は完全に負けてる気がするけど。」

そう言ったけど、専務は真剣に言ってくれた。

「そんなことない。似合う。……同じ色のピンクダイヤでネックレスもいいな。作ってもらうことにしよう。」

「いや、もう、充分ですから。それに、業務時間に付けられへんし。いらないいらない。」

私は慌てて拒絶した。

……ほっておいたら、私のために湯水のようにお金を使いそうだわ、専務。

こわいこわい。
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