吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
「何バカな事言ってるのっ?」
あとほんの数ミリで唇が柔肌に吸い付く寸前、渾身の力で押し返された。
「そんなわけないじゃない。だいたい、吸われた人も吸血鬼になっちゃうんでしょう?そんなのまっぴらゴメンよ。私は、餃子もペペロンチーノも大好きなの!」
え?そこですか。
俺の予想の遥か斜め上をいく返しに、憮然と言葉をなくす。
そうしている間にも、真澄さんは手際よく料理を容器に詰め込んで、
「これだけあれば何日か持つでしょ。君と違って、私は明日も朝から仕事なの。冗談を言っている暇があったら、もう帰ってもらえるかな」
それらを押しつけるようにして俺を追い返そうとする。
いつになく強い語気と曇った表情に、バカな俺はここになってようやく酷く怒らせてしまったことに気がついた。
「……真澄さん。ゴメン、俺――」
とにかく謝らなくっちゃ。そればかりで頭の中は真っ白で。
だけれど取り付く島もなく。追い立てられるようにして玄関から出されてしまう。
固く閉じられた扉を見つめ、しばらくそこから動けずにいた。
◇
次の日も、その次の日も。
俺は真澄さんの部屋を訪れていた。
オートロック手前で拒否されることはなく、玄関先で義務的に料理を渡してくれる。だけどそれ以上は無理だった。
話だけでもさせて欲しいと頼んでみたところで、
「悪いけど。今、インフルエンザがすごくって、診療所が忙しいの。疲れも溜まってきてるし、ここで私まで罹るわけにいかないから」
社会人としての立場を誇示するかのように説かれれば、しがない学生の俺に対抗する術はなく。
ちゃんとした謝罪も、苦し紛れの言い訳もできずに、日にちだけが過ぎていった。