吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
◇ ◇ ◇
悪いタイミングは重なるもので。
卒論の最終的な追い込みと、バイトが一人辞めたことのしわ寄せが一気に襲ってきて、自宅からそう遠くない彼女のマンションを訪ねる時間さえ取れない日々が続いていた。
いつの間にか、バイト先のBGMがクリスマスソングのメドレーになっていることに気づいた、そんなある日の夕暮れ時。
論文提出の目処がなんとかつき、バイトも久し振りの休みだった俺は、家で一休みしてから、今日こそは真澄さんの元へ行こうと家路を急いでいた。
正直なところ、この数日は満足な食事が採れていない。変わらずに届く野菜たちは、寒さで腐敗こそ免れているものの、すっかり萎びて部屋に放置状態だ。
疲労と空腹で重たい脚を引きずりながら、アパートの前まで来て立ち止まる。沈みかけた夕日に向かって肩を落として歩く影が、真澄さんに見えたから。
俺は角を曲がって消えた人影を慌てて追いかけた。
ときおり疲れと焦りで縺れそうになる脚を鼓舞して、ようやく追いついたのは彼女の自宅前で。
「――真澄さん?」
息切れする声で呼びかければ、「ひゃっ!」と荷物を放り出して怖がられる。
「筧君、なの?」
恐る恐る上げられた顔が戸惑いの色を映していて、ずいぶんと驚かせてしまったみたい。
「見かけて追いかけたんだけど。真澄さん、歩くの早い」
なかなか整わない息で途切れ途切れに言葉を紡ぐと、なぜか彼女は泣きそうな顔になっていた。
「ちょっ!また体調悪いんじゃないの?ちゃんとご飯食べてる??」
前にされたみたいに両手で頬を挟まれ、久し振りにみる変わらない彼女の顔が嬉しくて。
「ここのところ、忙しくしてて。カップ麺とか菓子パンとかで過ごしてました」
叱られるのを覚悟で白状してしまう俺は、もしかしたらMなのかも知れない。
案の定、眉を曇らせた真澄さんは、取り落とした荷物を素早く拾うと、いきなり俺の冷え切っている手を取りエントランスへと引いていく。
鬼気迫る様子に口を挟む余地はなく、まろびそうになる脚を必死に動かして付いていった。