吸血鬼の栄養学、狼男の生態学


 ◇


予想以上に帰宅までの時間がかかり、アパートに着いた頃には東の空が白んでいて。やっぱり、こちらは雪のイブは望めそうもない。

例の箱を冷蔵庫に無理矢理押し込んでから、さすがに疲れの溜まっている身体を休ませた。
開店からの勤務だからほんの数時間の仮眠しか取れないのに、それさえも妙な高揚感が邪魔してほとんど眠れなかった。

それでもなんとか夕方までいつも通りに勤務し、タイムカードを17:00きっかりに押すと店を飛び出した。

2つ隣の駅まで行くと、大きな包みを持った家族連れや手を繋いで歩く恋人たちの間をくぐり抜け、赤と白と緑が目を刺激する駅ビル内をグルグルと回る。

こんなことなら、ちゃんと下調べをしておくんだった。

ようやく目当てのものを見つけると、一目散で自宅へと引き返す。その頃にはもう日はどっぷり暮れて、すでに気の早いサンタが活動を始める時刻になっていた。

冷蔵庫から箱を取り出し、雪の無事を確認する。少し湿り気が増していたけど、丸めるには丁度良いくらい。
大小2個の雪玉を作って細工を施し、再び発泡スチロールの箱に戻すと、それを大事に抱えて家を出る。
彼女の元までのたった数分の距離が、無性にもどかしかった。



オートロックのモニターの前で深呼吸。初めてじゃないのに、心臓がどくどくと早鐘を打っているのは、早歩きで来たせいだと思いたい。

どうか喜んでもらえますように。

思いつくすべての神様に祈りを捧げてから、震える指先で呼び出しのボタンを押した。

応答があるまでの間がいつもより長く思え、手の上の冷たさも感じられずに息を詰めて待つ。ガサガサという音がしてやっと明るくなったモニターに向けて両手を差し出した。

「メリークリスマス!」

不安を隠して覗きこんだ顔は、上手く笑えているだろうか。

そんな俺の独りよがりな都合は、機械を通して届いた真澄さんの声で瞬く間に消え去った。

「ゴメン。体調崩しててご飯作れなかった。伝染すといけないから、帰って」

いまにも消えてしまいそうなか細い声に、俺の胸を占めていたドキドキワクワクは凍りついて砕け散る。かわりに心配と焦りで溢れかえり、モニターにがぶり寄っていた。




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