吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
年齢だけは成人して、選挙権も、飲酒や喫煙の自由も得たけれど、彼女との絶対的な溝を埋めるなにかが、これからの俺には見つけることができるのだろうか。
「・・・・・・にしても、日本は広いな」
唐突な菊池さんの言葉が、出口の見えない迷宮に入りかけていた意識を引き戻す。
「ウチの方はここんところ雨だってろくに降らないのに、こっちはホワイトクリスマスだ」
携帯灰皿に煙草を押し込みながら視線を動かした方向を見遣れば、道の駅の建物の入口に立てられた大きなもみの木が、鮮やかなLEDのイルミネーションで飾り立てられていた。
「筧は、明日も向こうのシフトが入っているんだっけ。大丈夫か?」
この分だと家に着くの明け方になりそうだ。明日はレンタル店のバイトが朝から入っている。
「無理言って、25日は休みをもらってますから」
「おかげで俺は夕方から仕事だ」
「そのかわり、明日のイブは彼女さんと過ごせるじゃないですか」
「あぁ。金と暇さえあれば仕事じゃなくて来たかったな。あいつとしっぽり温泉で雪見酒なんて、最高なのに」
しかも海が近いこの地は、美味しい魚介類も食べられる。
「土産になにか買ってくか」
直売所の方を指差し誘われたけど、カニとかブリとかとてもじゃないが買えないし。
断りで振った手の爪先に留まった雪の結晶が、駐車場を照らす照明を反射して光る。
あ、そうだ!
俺は、先に店に向かって歩き始めていた菊池さんを追い越した。
無理を言って譲ってもらった発泡スチロールの箱に、目一杯の雪を詰め込み、空っぽになったトラックの荷台に載せた。
「あんなもの、どうすんだ?」
自分は「鍋にする」とカニを1杯買い求め、同じく荷台に載せた菊池さんが不審がる。
「もちろん『彼女』へのお土産です」
得意満面でにんまりと笑う俺に、二対の気の毒そうな視線が注がれるけど、そんなことは気にしない。
だって、好きだよね?女の子ってこういうの。
俺は思いついた妙案を自画自賛し、帰りの車中で一人、笑いが止まらずにいた。