ビオラ、すずらん、年下の君


毎日のように一緒にバスに乗るから、少しずつお互いのことを知り始めているのに、なぜだか名前はきけない、という妙な空気で。
こんなのおかしい。

人と人が出逢ったら、名前を教えて合うのが普通なのに。

向こうは、教えたくないとか?

まさか。俺は警戒されてる?


相手の名を知りたくば、まず名を名乗れ。
彼女の名前を知る為の作戦を立てた次の日、俺はバスの中で自分の学生証を見せた。


すると案の定、
「私、佐原和香子っていいます。漢字は和風の和に香りの香」
とはにかんで教えてくれた。作戦成功!


さはら、わかこ。

なんとなく、夏っぽい名前だと思った。すごくいい。


授業中にも、時々わかこのことを考えようになっていた。
今日の服、可愛かったな…とか。
長くて綺麗なまつ毛だったな…とか。


俺、やばいかな?

わかこって、何歳なんだろ?

わかこって、呼び捨てにすると急に距離が縮まった気がして…なんかドキドキする。


「お前〜、もうそりゃ恋だよ」


放課後の誰もいない教室で、沢村に言われた。







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