陽のあたる場所へ


絢音さんは、母にも気に入られ、家政婦さんとも仲良くなり、兄が居ない時でも家に自由に出入りしていた。

兄が父の会社に入ってからは、終業時間が全く読めず、外で待ち合わせもできないからだそうだ。

だから彼女は、仕事を終えて適当な時間に家に来ては、リビングで家政婦さんや、母の帰宅が早ければ母と話をしていたり、兄の部屋でDVDを見たりしながら、兄の帰りを待っていた。


俺が試験間近の時は、勉強を見てくれることもあった。
正直、これは嬉しいけど、反面、辛かった。
何しろ、いつもなら1、2メートル以上はお互いの距離を保っている状態なのに、それが至近距離に、場合によっては密着に近い状態になるのだから‥。

それでも俺は、必死に理性を保っていたんだ。



兄の部屋の前をたまたま通りかかって、絢音さんのいつもとは全く違う艶めかしい声が聞こえて来た時には、胸の中の何かをえぐり取られるような痛みを感じ、即座に自分の部屋に戻り、ステレオを大音量にしてヘッドホンで耳を塞ぎ、そのまま毛布を被って身体を丸めた。

実際に見た訳でもないのに、兄と絢音さんが裸で絡み合う映像が脳内に溢れ返る。
そんな、気が狂いそうになる夜も度々あった。




それでも俺は…
気丈な振りをして、必死に理性を保っていたのに…

その俺の理性を、ある日突然、絢音さんが打ち砕いた。




そして、それが突破口になり、壁の向こうに潜んでいた知りたくもなかった現実が一気に押し寄せ、俺を飲み込んだんだ。


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